自縄自縛 4





三蔵と八戒は 結局 を見つけられないままに寺に戻った。

悟空と悟浄に 問い詰められて 八戒が三蔵との間にあった事を話すと、

悟空は いつもと違って 酷く三蔵を責めた。

「三蔵は 何もわかっちゃいねぇんだよ。

は 寺に来ると三蔵が遠い人に感じるって言ってた。

三蔵法師という称号を 突きつけられるみてぇだって・・・・

自分がどう思われようとかまわねぇけど 三蔵を遠くに感じるのは寂しいって・・・・・、

だから 俺 寺ではから離れねぇようにしてたのによぅ。

それを 銃で狙っただなんて 三蔵酷いよ!」

「猿の言うこともあるだろうが、三蔵 を遠ざけといて 

あの子が纏わりつくのを許してただろう。

三蔵には子供に見えるんだろうが、18歳といやぁ 立派な女だ。

それに青華ちゃんの三蔵を見る目 恋する目だったよ・・・なぁ?」

悟浄は 八戒を見てそう言った。




「えぇ そうですね。こんなに破戒僧な三蔵を見ても 

まだ その現実を受け止めていないといった感じですかね。

は寺院に泊まると 必ず三蔵からは距離を取っていましたが,

今回は さすがに辛そうでしたね。

三蔵を見ると 青華さんといるでしょう、だから 見ないようにしていましたからね。」

八戒は 悟浄に同調して そう言った。

「で、これからどうすんの?」

「さあ 僕には 何とも言えませんね。

ただ 原因はリムジンが 三蔵を嫉妬させようと煽ったことに始まるわけですし、

リムも一緒に行きましたから なだめることに成功すれば 帰ってくるでしょう。」

「おい リムジンがわざと俺を 煽ったって何故解る。」

「おや 三蔵 気付いてなかったんですか?

主人を泣かせる三蔵に 意趣返ししたかったんだと思いますけど、

あの 庭の立ち位置も見せ付けるために わざと選んだようですよ。

それに口付けも額だったでしょう? 

男としてなら 額ではなく唇にしたと思いますけど。」

八戒は リムジンの行為を 解説した。

「その口付けを受けたも 親愛の印として受け取ってたようです。

ジープも一緒にしてましたしね。

確か リムはが幼獣から育てたって言ってましたし、

変化していて姿は男の人でしたが、にしてみたら 

子供からのものといった感じですかね。」

八戒はジープの背中を撫でながら 解説を続けた。





「俺が全部悪いって言うのか?」

それまで 黙ってみんなの言う事を聞いていた三蔵が ポツリとつぶやいた。

そこで そうだと言っても が帰ってくるはずもなく それが解っているからこそ 

皆 三蔵に対して 何も言わない。

これは 基本的に三蔵との問題だという事は解っている。

解っているが 他の男達もそれぞれの想いで を見つめているのは確かなのだ。

だからこそ の幸せを願うからこそ 三蔵と幸せになって欲しいと思う。

そこまで 考えが行くと 今回は 三蔵が悪いのだと最初からに戻り 

堂々巡りを始めてしまう。

悟空が 切なそうにため息を吐いた。

「リム、どうしてっかなぁ〜。

ちゃんとのこと守ってるかなぁ〜?」

その問いに 誰もが無言で答える。

が自分から いなくなったのだ 探しようもない。

ただ その無事を祈る 三蔵たちであった。





その深夜。

何ものかの気配に 三蔵は枕もとの銃に手を伸ばした。

気配を探ったままで 戟鉄を起こすと 起き上がりざまに 

そのものに向かって狙いを定めた。

月明かりの元 三蔵が見たのは 変化してそこに座っているリムジンだった。

「三蔵様 お話を聞いていただきたく まかりこしました。

変化しませんと 話せませんので このままで失礼を致します。」

はどうしている?」

「あの後 次の街に向かわれ 宿で休んでおいでです。

守護はご心配なく、私の配下のものを2人呼び寄せて 着かせております。

悟浄様程度には強い者達でございますので、ご安心下さい。

三蔵様には この後 様といかがなされるおつもりですか?」

「フン、おまえに話す義理はなぇな。」

「確かに・・・・・ですが 様の泣き顔は見たくはございません。

金蝉様とのことで 充分お苦しみになり、

お泣きになり ようやく笑顔になられたのです。

これ以上 お辛い目には合わせたくございません。」

リムジンの声は 静かで落ち着いていたが、力のあるものだった。





「さっき下僕どもにも 俺がワリィと言われたよ。

が戻ってきたら 青華には との事を話す。」

「本当ですか?」

「てめぇ 俺をなんだと思っていやがる。

これでも 僧籍を持つ身なんでな 嘘はつかねぇ。」

「そのことなんですが、三蔵様には 様をどうされるおつもりですか?

この旅の間だけの慰み者とお考えなのですか? 

関係が続くとしても 旅の後は お1人にされるのでしょうか?」

「リム、それはお前には関係ねぇな。

にだけ伝わっていればいい事だろ。

1つだけ確かな事は 俺は 三蔵を辞めるつもりはねぇし、も放すつもりもねぇ。

それだけだ。」

「わかりました。

何とか 様を説得して こちらへ帰るように致します。」

「あぁ そうしてくれ。

悟空が 心配で食欲が落ちてるって言えば、かなりの効果があるだろう。」

「御意。」





「リムジン 先刻の事は お前の忠義心に免じて 許してやろう。

だが 常に側にいるものだからこそ お前に安心してを預けるためにも

これは言っておく。

は 俺の女だ。

たとえ俺が 三蔵法師であろうとも が揚子江神女であろうとも それは変わらねぇ。

てめぇにとっては は母親だろう。

だからこそ 許しているんだ いいな。」

「三蔵様 ありがとう存じます。

だからこそのお願いでございます。

様を 泣かさないで下さい。

では これで・・・・・」

リムジンは 庭に出ると 飛翔して姿を消した。





三蔵は リムジンが飛び去った庭に1人出た。

掴んで出た煙草に火をつけて 一服する。

2匹の竜を 庇って自分を見つめたの顔を思い出す。

浮かんでいた気持ちはなんだっただろう?

悲しみか、怒りか、失望か、どれもが当てはまるようでいて、そのどれでもないように思う。

そう 強いてあげれば あれは不安だ・・・・・と 三蔵は思い当たる。

は 俺に不安を感じていたんだ。

青華を許していること、リムジンが言った未来の関係、それぞれの立場、

俺の愛、どれも確かなようで 確固たる約束もない不安定なものばかりだ。

そのすべての不安が 堰を切ったように溢れたのだろう。

今までに 感じていたものが 一時に表面に浮かんで出た。

その引き金になったのは 自分の向けた銃口だった。

次第の問題だが 自分と離れる事を選ぶかもしれない・・・・・

現に今だって 離れている事を選んでいる。

リムジンが飛び去った空を見上げて 暫くたたずむ三蔵だった 。








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